運動生理学
福岡大学スポーツ科学部 運動生理学研究室
健康データ
日本近年、日本の生活環境は高度経済成長とともに急激に発展してきました。
身の回りの物が機械化・自動化し、今ではインターネットを利用し自宅で買い物が出来るなど、我々の日常生活は大変便利になっています。
このように豊かになる一方で、人々は自ら活動する機会を更に減少させ、高齢化社会を迎える日本に当たって、運動不足が原因となり起こりうる「生活習慣病」を自ら招いているのです。
その一部として、「骨粗鬆症」があります。この骨粗鬆症が問題とされるのは、骨が脆弱化することで骨折の危険性が高まり、とりわけ大腿骨頸部や腰椎を骨折すると、長期の療養を強いられ寝たきりにつながる可能性があるからです。
これは、Quality of Lifeの低下や国民医療費の高騰を招き、社会的にも大きな影響を及ぼしています。
いかに一生涯を健康で活動的な生活を送れるかが重要であり、高齢者にとっての生きがいになってきます。
骨は、筋肉や靱帯とともに重力に抗して身体を支え骨格筋運動の支点となる器官、つまり建造物でいう支柱に当たります。
しかし、骨は構造を変えずに経年的に老朽化の途をたどるわけでなく、外界からの力学的ストレスに対して最適な構造を機能的に維持するよう、常に形や構造成分を変化させています。生きている骨は、一生を通じて破骨細胞による骨吸収(=骨を壊す)と、骨芽細胞による骨形成(=骨を造る)を繰り返しています。これを「骨代謝回転」と呼んでいます。
正常な骨では、両者のバランスが様々な因子によって調整され、機能的に連携しています。しかしながら、栄養・ホルモン・遺伝的・環境的要因などによってバランスが崩れ、骨吸収が骨形成を上回った状態になり、極端に骨量が減少してしまうのが骨粗鬆症です。
特にこの骨吸収と骨形成のバランスの崩れは、骨代謝にかかわっている女性ホルモン(エストロゲン)の欠乏をきたす閉経後女性、及び骨芽細胞の老化とカルシウム調節ホルモンの生産能力の低下が進む老年者において生じます。
前者を「閉経後骨粗鬆症」、後者を「老人性骨粗鬆症」と言います。従って、骨粗鬆症は高齢化が進むほど罹患率が増加することが予想でき、男性に比べ圧倒的に女性がかかりやすい疾患だといえます。
このように、加齢や閉経後に骨が脆弱化することが避けられないとなると、常に予防を心がける必要があります。
その予防法の一つが運動であり、これまでに様々な研究が報告されており、一般的に無酸素性運動が広く認知されています。これは骨量の増加には、骨に対する衝撃や圧縮力などの機械的刺激が欠かせないことから、衝撃度が高く、大きな筋力を要するトレーニングを意味しています。
一方、ニコニコペース運動のような比較的軽強度の有酸素性運動では、骨への衝撃度が弱く骨量を増加させるためには不十分であると考えられています。
しかしながら健康づくりの面から見ると、無酸素性運動は瞬時に力を発揮するため、血圧の急上昇など安全面から危惧するものがあります。
そこで我々福岡大学スポーツ科学部運動生理学研究室は、真美健康体操協会会長である山崎比呂真さんと同福岡本部の方々のご厚意により、真美健康体操インストラクターと同年代の運動非実施者を対象とし、軽強度の有酸素的運動が閉経前後の骨量に及ぼす影響を明らかにするために調査してきました。
今回はその研究成果を皆様にご報告いたします。調査開始時に真美健康協会インストラクター20名を真美健康協会有経群(E有経群)7名、真美健康協会閉経群(E閉経群)7名、真美健康協会子宮摘出群(E摘出群)6名に、運動非実施者14名を運動非実施者有経群(NE有経群)7名、運動非実施者閉経群(NE閉経群)7名にそれぞれ分けました。
図1は、生活習慣病(高血圧・糖尿病・肥満など)と密接に関わっている最大酸素摂取量(A)と下肢筋力の指標となっている脚伸展力(B)を運動非実施者と比較したものです。
最大酸素摂取量においてE閉経群は、NE有経群・閉経群と比べ有意に高い数値を示しています。
またE有経群・摘出群とも統計学的に差はありませんが、NE有経群・閉経群より高い水準を保っていす。脚伸展力においても、E閉経群がNE閉経群より有意に高値を示しています。
図2では、骨粗鬆症の指標の一つである、骨塩量(C)と骨密度(D)を各群で比較しています。骨塩量はE有経群及びE閉経群とも、E摘出群、NE有経群及びNE閉経群より有意に高値を示しています。
骨密度おいても、E閉経群はE摘出群、NE有経群及びNE閉経群より有意に高値を示しています。
これらの結果から、真美健康体操協会で運動を習慣的に継続していくことで、生活習慣病になりにくい身体をつくり、加齢とともに低下していく下肢筋力を高めることが、転倒防止の一助につながると考えられます。
また、骨量も同年代の運動非実施者よりも明らかに高い水準を維持しており、閉経後のエストロゲン低下が引き起こす骨粗鬆症の予防にもなっています。
更に図3・4は加齢と骨量の関係を調べたもので、赤丸が真美健康協会、白丸が運動非実施者です。両グラフとも運動非実施者の回帰直線よりも真美健康協会の方々は上の方に位置しています。このことは真美健康体操が加齢による骨量の低下を抑制している可能性があります。 以上の研究結果からも明らかなように、真美健康体操は身体へ好影響を与えています。閉経後に女性の身体は様々な機能に障害をもたらします。
またそれと同時に加齢により諸機能は低下していきます。両者は人生において避けて通れない問題です。とりわけ女性にとって骨粗鬆症は大変重要な問題であり、この病気や諸因子により骨折を招き、その後寝たきり状態になるケースは後を絶ちません。
しかしながら、真美健康体操を習慣的に継続して行っていくことで、これら問題を防止できることが予測されます。
健康で生きがいある生涯を送るためにも、今後とも当協会での運動を継続していき、より多くの地域住民にこの運動を普及し、一人でも多くの方々が健康で生きがいのある人生を送って頂く手助けをしていただきたいと思っています。
最後になりましたが本研究を行うにあたり、会長の山崎比呂真さんを初め、当協会本部の皆様には快く参加して頂きましたことに、心より感謝の意を称します。
福岡大学スポーツ科学部 運動生理学研究室 進藤宗洋 吉田規和